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2012年1月28日 (土)

葉室 麟 「蜩の記」

葉室 麟

蜩の記

つい先週、直木賞を受賞した作品です。
私は、受賞の決定の前に、候補に挙がっていることも知らずに読みました。実は、某週刊誌が、昨年の歴史・時代小説ベストテンのような特集をやっていて、その第2位に挙がっていたのです。第一位が、山本兼一氏の「銀の島」だったのですが、そちらが書店で見当たらず、取り敢えず本書から読み始めました。結果的には、週刊誌の特集での惹句ほどではありませんが、まぁまぁ楽しめた一冊と言ってよいかと思います。
作者の葉室さん、福岡県在住で新聞記者から50歳で小説家に転身、その後10年、還暦を越えての直木賞受賞と言うことで、もっと世間の耳目を集めても良かったのでしょうが、同時発表の芥川賞の方が、キャラクターの際立った受賞者がいて、選考委員の某都知事を巻き込んでのエール(?)の交換などもあったりして、直木賞の影がちょっと薄くなってしまいましたね。
作品の方は、さすが苦節十年(と言って良いのか)。手慣れの作家の満を持した一作です。
舞台は、時代小説かくあるべしというような某地方藩の在所と城下が舞台。しかし何といってもこの作品の最大のポイントは、藩主の側室との密通の罪で、10年間の藩史の編纂とその後の切腹を命じられている主人公という意表を突いた設定。その主人公の監視役のように送り込まれた若侍が、主人公の家族や周囲の人々と関りつつ、次第に主人公の人柄に感化されていくというのは、まぁお定まりの筋書きですが、残念ながら、主人公が切腹を命ぜられた背景は、それほど意外なものではなく、藩史にまつわる謎も、カタルシスを齎してくれるほどのものではありませんでした。
領民の不穏な動向や主人公の息子と小作人の子供との交流、悪徳商人や過酷な代官といった設定も定番といえば定番ですが、子供を置いて逃げ出した小作人は、改心して戻って来るし、黒幕の家老も、最後には、実は主人公を評価しているようなことを言い、何となく予定調和の中に戻って行ってしまいます。主人公が従容として引き受けようとする過酷な運命とバランスを取るためなのかもしれませんね。
登場人物は、映画化やテレビドラマ化ならキャスティングの案が何セットもできそうなくらい、時代小説のつぼにはまりまくりの設定。それでも月並みにならず、最後まで読ませるのは、やはり作者の筆の力でしょうか。多分、時代劇好きの人には、ストライクゾーンまん真ん中の直球なんでしょうし、安心して小説を読みたい多くの読者にお勧めです。
ドラマ化されるでしょうが、かえって難しいかもしれませんね。演出家の技量がもろに出てしまいそうですね。

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「蜩ノ記」がラジオドラマで放送されます。
NHKFM青春アドベンチャー6月18日から全10話。

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